マムシ(蝮蛇)
マムシは、現代の日本でも用いられている、数少ない動物薬です。
ドリンク剤や一部の栄養剤、漢方薬、健康食品に配合されています。
なんとなく効きそうだなという感じで飲んでいるのでしょう。
しかし、実際に良く効く、動物薬です。
何に使うかは、売り手の薬剤師の経験が物を言いますが。
蛇は、長期間 餌を食べなくても耐えられる、ということで、生命力が強いとされています。また、毒のある種もいて、なんとなく何かに効きそうということで、強壮剤的にも用いられてきました。
さて、
日本産の毒蛇は、 10数種類いるといわれています。
こう書くと、意外に多い感じがしますが、
ニホンマムシ以外は、ハブ類が狭い地域 特に南西諸島に分布しているので、日本の大部分の地域では、マムシが唯一の毒蛇です。
ヤマカガシも全国に分布していますが、数が少ないのと、人に対して危害を加えることは極めてまれなので、やはり、マムシが唯一の毒蛇といえましょう。
海蛇の中にも、「エラブウナギ」のように猛毒のあるのがいますが、性質がおとなしいので、人に危害を加えることはまれなのと、分布地域が限られているので、これまた数に入れなくてもよいでしょう。
そういうことで、マムシが、唯一の毒蛇で、毒があるので、特別に効きそうということで、古くから薬にされて来たのでしょう。
しかし、マムシの薬理作用、薬効などについて詳しく記述したものが、このブログ以外にありません。軽く触れているのはありますが。
以前、4回に分けて書きましたが、それに補足して、更に何回かに分けて、マムシについて書いてみます。
日本で売られているマムシについて
韓国にもマムシがいますが日本のと同じ種かどうかは、分かりません。
台湾のマムシは日本と同じニホンマムシです。
中国にもマムシはいますが、日本のとは別な近縁種です。
中国では、マムシは養殖もされていますが、供給量の大部分は、天然のものようです。
そして、日本で用いられているマムシの多くは輸入品といわれています。
しかし、効き目は特に変わらないようです。
そして、韓国のも大陸のも、生薬では同じように扱われています。
商品としてのマムシは、蒸し焼きという形がほとんどです。粉になっている場合もありますが、他の蛇を混ぜられてもわかりません。
買い求める場合は、「マムシの蒸し焼」というのを求めるのがいいでしょう。
(買う人は、まあ あまりいないでしょうが。)
マムシを延ばして乾燥したものを反鼻(ハンピ)ともいいます。
鼻が反り返っているので、反鼻(ハンピ)というようです。
ドリンク剤その他にも、マムシが使われているのもあります。「マムシ」と書かずに、「ハンピ」と書いてあるのが、しばしばあります。
ずばり、マムシと標記すると、いやがる人がいて、売り上げに影響するのを恐れてなのでしょう。
黒焼きにしたものを、五八霜(ゴハッソウ)ともいいます。霜というのは、黒焼きのことです。
マムシの黒焼きは、現在も商品としてはあります。
しかし、どの程度用いられているのか、分かりません。
マムシの種類と学名
日本のマムシは、ニホンマムシとツシママムシの2種で、中国には、中介亜種、短尾亜種、 日本亜種、高原蝮蛇の3~4種です。
『決定版 日本の両生爬虫類』内山りゅう先生、前田憲男先生、沼田研児先生、関慎太郎先生。平凡社。2009年9月 より
ニホンマムシ Gloydius blomhoffi
大きさ:40~65cm
分布:北海道、本州、四国、九州、焼尻島、天売島、佐渡島、隠岐島、壱岐島、五島列島、屋久島、種子島、伊豆大島、八丈島など。
特長:
マムシは胎生で、8~10月に5~6匹の小蛇を生む。子蛇は、全長約20cmで、生まれたときからすでに毒を供えている。
肉を食用にすることもあるが、マムシの皮や乾燥肉、粉末、または1匹丸ごとを酒に漬け込むなどしたマムシ酒が全国各地で民間療法として伝わり、利用されている。
これはハブ酒の場合も同様だが、古来から毒蛇の強靭な生命力にあやかり、これを食すれば心身の強壮に効果があるとされたからである。
ツシママムシ Gloydius tsushimaensis
大きさ:全長40~60cm
分布:対馬にのみ分布している。
特長:背面は褐色の地に、ニホンマムシに比べてやや小さい楕円形の模様が非対称に並ぶ。模様の真ん中には、暗色斑がなく、いわゆる銭型紋をもたない。全体的な色彩がやや淡い。ニホンマムシの下が黒色なのに対して本種はピンク色である.
「中国薬用動物養殖与開発」には、蝮蛇の学名は、Agkistrodon halys Pallas であり、
我が国(中国)には、3種の亜種がいるとして、
以下の3種が記載されています。
このうちの日本亜種は、台湾省にのみ分布していて、日本列島のマムシと同じであるとしています。
(中国)マムシ
亜種 中介亜種 Agkistrodon halys itermedius Struch
短尾亜種 Agkistrodon halys brevicaudus Stejnegaer
日本亜種 Agkistrodon halys blomhoffi Boie
しかし、『決定版 日本の両生爬虫類』には、上記のように ニホンマムシの学名は、Gloydius blomhoffi となっており、上記の日本亜種と同じかどうかは、不明です。
また、「動物本草」(中医古籍出版社)には、蝮蛇としては、Agkistrodon halys Pallas を挙げていますが、高原蝮蛇(甘粛、青海、チベット産)学名 Agkistrodon strauehii Bedriaqa も、蝮蛇と同じ効用があり、薬になると記載されています。
マムシの生命力はすごい!
蝮は、飢えに強く、最長で、1年以上、何も食べないで生きていられる。
蝮に限らず、蛇は一般的に生命力が強いとされています。その理由の一つが、長い間、食べないで生きていられるということです。
では、どのくらいかと言いうと、『中国薬用動物養殖与開発』に蝮に関しての記述がありましたので、紹介します、
『中国薬用動物養殖与開発』貴州科技出版社。2002年1月より
マムシの食性
マムシは食性が広く、そのため広範囲に分布している。泥鰌、タウナギ、蛙類、トカゲ、小型の鳥類、小型の獣類を主な食物としているが、時には昆虫、ムカデ、ダンゴ虫なども食べる。蝮蛇は食欲が極めて旺盛で、大人の蝮蛇は連続して、3~5匹のスズメやネズミを食べることが出来る。
食べ方はというと、始めに噛み殺してから、呑み込む。これは、飼育下でも同様である。
幼少の蝮蛇は、主にムカデ、ダンゴ虫や昆虫を食べている。
マムシの消化速度は、きわめて緩慢で、1度食べると5~6日で、消化を完了する。
最も、消化が盛んなのは、食後22~50時間の間である。
消化速度は、外界の温度と関係があり、25℃の時の消化速度は15℃の時と比べると、非常に速い。
マムシの飢えに対する耐久力
蝮蛇の食物利用率は、非常に高い。(食べた量に比べて、体重増加量が、他の動物より極めて多い。エネルギー効率が良い。)
たとえば、中介亜種の蝮蛇の食後の体重増加率(排便後の体重増加量÷食事量)の最高は、72.7%で、最低は6.4%、平均は33.4%である。
しかし、分解代謝速度は極めて低く、気温10℃以下で、完全絶食状態にすると、その体重の減少は極めて低い。たとえば、132日間、絶食させても、体重はわずか2.3%~12.0%、平均5.0%減少するだけである。
しかし、蝮蛇の飢えに対する耐久力は、飲水と密接な関係がある。
たとえば、渤海の蛇島の蝮蛇は水を供給した条件下では、80~392日間の絶食に耐えている。体重減少の平均は、わずかに24.7%である。
水を供給しない条件下では、34~107日間しか生存できない。
体重減少の平均は33.8%である。
生まれたばかりの子供の蛇でも、水を与えれれば、食料のない条件下でも、長く生きられ、死亡しない。
マムシの薬用効果・薬効 その8
第236回
蝮には、数多くの薬理作用があります。古い時代から今に至るまで、さまざまなことに応用されてきました。
古典での記述
マムシの薬効については、最も古い本草書である「神農本草経」にはなく、それに、注を付した「本草経集注」の「虫獣下品の部分」に、マムシのキモ(蝮蛇胆)が収載されており、マムシの肉についても付記されています。
「本草經集注」 南朝‧梁 陶弘景
蝮蛇胆
味は苦く,微かに寒である。毒が有る。
主治 :瘡。
肉︰釀して酒にすれば,癩疾,諸 ,心腹痛を治す。下結氣,蠱毒を除く。
其の腹中にある吞まれた鼠︰有小毒,治鼠 。
蝮蛇は黃色で,黃頷で口はとがっている。毒は最も烈しい。
「本草綱目」 李時珍
蝮蛇
李時珍「蝮という字は、虫偏に復の右部分を合わせた字である。蝮というのは、これに触れば復讐に人を害する。害されると、今度は人がまた復讐する。それ故に蝮と言う。」
蝮蛇は形が長くなく、頭が平たく、口が尖っている。頭に斑があり,身体には赤い文斑があるが、青黒色のものもいる。人が触れ犯すと頭、足に粘着する。東方の諸山に非常に多いので、草の中を歩行するに注意深くしなければならない。
蝮の肝の 気味は、苦く、微かに寒く、毒がある。
蝮の肉の、 気味は、甘く、温で、毒が有る。
主治:酒に漬けて薬用酒にすれば、ライ病、諸瘻、腹痛を治す。
結気を下し、蠱毒を除く。
(別録)五痔、腸風瀉血。
(甄権)大風、諸悪風、悪瘡瘰癧、皮膚頑痺、半身枯死、手足・臓腑間の重い疾患。
附方
脂:耳が聴こえない場合には、綿でつつんで塞ぐ。また、腫毒につける。
皮:焼いて灰にすれば、丁腫、悪瘡、骨疽を治療する。
抜け殻:身体の痒み、疥癬、
骨:赤痢には、焼いて灰にして、三銭を服用する。その他の蛇でも良い。
尿:器の中で飼って、尿をとる。 痔ろうを治す。
現代での記述
「毒薬本草」 より
(毒薬本草とは、なかなか魅力的な名前です。有毒な生薬だけを集めた書物という意味です。
実は、毒薬本草と名のついた本は、いくつかあります。
私自身は、2冊ほど持っています。
毒薬とは言うものの、これが毒薬?というのも含まれています。)
マムシの毒は危険ですが、薬としての、マムシ(肉、骨、胆など)には、全く毒性が有りません。
マムシ酒を飲んで死んだ人はいないですし、マムシの蒸し焼きや黒焼きを服用して死んだ人もいません。
マムシの毒については、いずれ 後で述べます。
「毒薬本草」のマムシの項の末尾には、結論としてこう記述されています。
按ずるに:
蝮蛇(マムシ)は、体力を補い、諸々の寒さ(諸風)による病気を治す効果がある。
おおよそ、麻風、風湿痺痛、皮膚頑痺の寒さによる疾病(風疾)のすべてを治療することが出来る。
現代での研究では、蝮蛇には、抗がん、抗結核作用があり、骨髄炎、紅斑狼瘡などを治療する効果がある。
蝮蛇の毒は毒腺の中にだけあり、蝮蛇の身体そのものは毒性が少ない、という特長の有毒な動物生薬である。
「採集炮製」 春、夏に捕獲する。捕獲後、腹を切り開いて内臓を除去する。加熱して乾燥させる。(いわゆる、マムシの蒸し焼き。この形で、日本では、一般的には売られている。)
黒焼きにして粉にしたものは、蝮蛇霜(フクダソウ:日本では、五八霜ゴハッソウという)と呼ばれる。
「化学成分」 蝮蛇粉の主な成分は、コレステロール、タウリン、タンパク質、脂肪、アミノ酸、有機酸、ビタミンA、ビタミンBなど。
「功能主治」 去風、攻毒、鎮痛、補益、母乳を出を良くする。
麻風、風湿痺痛、疥癬、皮膚頑痺、瘰癧、瘡癤、病後の虚弱、多汗、神経衰弱、母乳の不足など
臨床研究:
1、麻風を治療する。 蝮蛇酒を単独、または 薬と併用する。
麻風の患者の一般的な状況、たとえば精神、体重及び食欲などはすべて改善した。皮膚反応は消退または進歩した。知覚は好転、潰瘍は縮小、性機能は改善した。
2、その他の疾病。
各種の蝮蛇製剤を用いて治療したところ、
皮膚ガン、早期の胃ガン、神経性皮膚炎、掌蹠角化症、紅斑狼瘡、結節性紅斑に併発した風心病、骨髄炎、骨結核、肺結核、甲状腺腫瘍、風湿麻痺、腸系膜リンパ結核などに対して、すべて一定の治療効果があった。
冷凍乾燥した蝮蛇製剤(蝮蛇の粉0.3gをカプセルに装入したもの。1日3回、1回に4カプセル。)を用いて、膠原病、皮膚病、結核病、心臓血管病、腫瘍など18種の疾病に対して治療することが出来た。
我が国の「蛇島」と「長白山脈」産の蝮蛇より作った「蝮蛇注射液」を用いて浸潤性肺結核、慢性気管支炎、慢性骨髄炎などの疾病を治療したところ、良好な効果があることが証明された。
動物実験では、抗炎症作用、マクロファージの食作用の増進、物質代謝・同化の促進作用があることが証明された。
「動物本草」(中医古籍出版社)
「採集炮製」 春、夏に捕獲する。捕獲後、腹を切り開いて内臓を除去する。丸めて円盤状にして、頭は中央に置く。直径は6~10cmで、加熱して乾燥させる。身体は黒褐色または土褐色で、腹部には黄白色の脱落しやすい鱗がある。体の鱗は腹部の2列が外に向かって立っている。鼻孔と眼の間の頬はくぼんでいる。眼の後ろには白色の眉線紋がある。尾は短い。
「中医食療法全録」頂平先生主編、人民衛生出版社、1997年9月 より、
蝮蛇酒①
処方:蝮蛇 1匹、人参 15g
製法:蝮蛇を生きたまま器に入れ、白酒1,000mlを入れ、人参を加える。
7日後より服用できる。
用法:何時でも、適量を服用する。
効用:去風解毒
出典:中医臨床備用
主治:牛皮癬
蝮蛇酒②
処方:蝮蛇 1匹、酒 2斗
製法:生きたままの蝮蛇を、酒2斗の甕に封じ込め、馬が小便をした所に埋める。1年後に取り出せば、蛇はすでに消化されている。
用法:1度に数杯、適量でやめる。
効用:解毒
出典:家庭食療手冊
主治:悪瘡諸萎、悪風頑痺、癲病を治す。
エピソード
昔、学生時代に、同級生から、こんな面白い話を聴いたことがあります。
彼は、信州の南部の出身です。その地区には、薬用酒の工場があります。そこへ、マムシを持ち込むと1匹500円で買い取ってくれたとのことです。地元の人の良い小遣い稼ぎになったそうです。
薬大生の時でしたから、今から40年くらい前のことです。
今も、買い取っているのかは分かりませんが。
その、薬用酒には、確かに「反鼻」と表示されていますが、含有量が少ないので、マムシとしての効果はあまり期待できないでしょう。
蛇のニオイとか味がするくらいでないと、マムシとしての効果は期待できないでしょう。
トップシークレット 薬品名は出しません。
昭和薬局でのマムシの入った薬(漢方薬)
ちなみに、当店で扱っているマムシの入った薬は、カプセルに入っていますが、ビンを開けると、蛇独特のにおいがします。
しかし、お客さんには、漢方薬のニオイです、と説明しています。ウソではないですから。
また、蛇のニオイだと判別できる人は、ほとんどいないし、
そういう人は、この薬はニオイからして効くと判断するでしょうから、それはそれで良いわけです。
この薬を、お勧め(疲労などで)した場合には、大部分の方からは、よく効いたといわれます。
最初は、お試しの小さいのを勧めますが、次からは、多くの方が、大きいサイズのを求められます。
この薬に関しては、マムシが入っていることを、多くの方には、あえて伝えてはいません。
ひどい疲れにも効く漢方薬です、と説明してあります。
成分を見ても、たくさんの生薬が並んでいるので、よく気をつけないと、マムシの存在には気がつかないでしょう。
また、疲労の方に、やみくもに出してはいません。マムシとしての効き目を考えた上で、勧めています。それで、疲労回復剤以上の効果を上げることが、喜ばれている理由でしょう。
私自身は、マムシ、ハブ、コブラ、シマヘビの蒸し焼きを粉にして飲むこともあります。
また、店の二階の冷蔵庫には、蛇を始め何種類かの虫類薬をストックしています。売るのではなく、自家用または単なる趣味でですが。
というわけで、蛇のニオイはすぐに分かります。蛇には、やはり共通したニオイがあります。
また、蛇を粉にして飲むのは、面倒ですし、癖のある味、ニオイで、こういうものは、今の時代嫌われるでしょう。
カプセルや錠剤にしてあれば、抵抗がないでしょう。
最後に、マムシの不思議な鎮痛作用について
マムシの不思議な鎮痛作用
今から相当前に、漢方薬メーカーのセールスの人から、こんな面白い、不思議なことを聞いたことがあります。
ある、薬局では、蝮酒を鎮痛剤として売っている。
(これは、法的には違法です。しかし、どこの店かと聞かれても、私は知りません。あえて、聞きませんでした。あるいは、もう、廃業しているかもしれません。こういうことは、
相当年配の人しか知らないでしょうから。)
スポーツをしているお客さん(コーチとか監督みたいな人らしい)が、あれをくれというと、マムシ酒のビンから酒を取り出し、100mlあたり 何円という風に売っているとのことでした。
痛みによく効き、怪我の治りも早いということです。
スポーツをしている人が、西洋医学的な治療を受けたり、薬を使ったことが無いはずがありません。
しかし、それよりも良いということで、敢えて こういう不思議なものを買って使っているということでしょう。
その、マムシ酒の造り方は、こうです。
生きているマムシをビンに入れる。死んでいるのは効かず、生きたままでないと効かないそうです。しばらく、そのままにしておいて、糞を出すのを待ちます。
当然 絶食していますが、相当期間、3ヶ月とかそれ以上生きています。
それに、焼酎を入れて、しばらくおいておくと、きれいな飴色になります。
それを、薬として利用するのだそうです。
この話を聞いたとき、実に不思議なことだなとは思いました。
しかしその後、生薬、特に虫類薬について調べているうちに、蛇の類の薬効に、骨節疼痛、麻痺とか関節痛とか通絡とか、痛みに効くような言葉が盛んに出てくるのに、気がつきました。
そうこうしているうちに、村上光太郎先生の「よく効く民間薬100」という、本を手に入れました。そこに、マムシ酒の鎮痛作用について欠かれていました。
昔聞いたことの全く符合しています。
『薬草採取に行ったときに、一緒に行った学生の一人が、足を捻挫して歩けなくなってしまった。
近くの民家で、休ませてもらったところ、その家のおばあさんが、何かに浸したと思われるガーゼを持ってきて、いためた所を湿布してくれた。
しばらくして、おばあさんが「歩いてごらん」と言うので、学生が歩いて見たら、腫れも引き、痛みもなくなっていたとのことです。
マムシの、鎮痛効果は、民間薬や漢方薬の専門書にものっていないし、私(村上先生)も知りませんでした。
マムシ酒の新しい効用に出会い、感激した。
その後、マウスを使ってマムシ酒の鎮痛効果をテストした。
その結果、漬けて5年以上たったマムシ酒の鎮痛効果は、インドメタシンとほぼ同じであることがわかった。
漬けて、1,2年のマムシ酒は鎮痛作用が弱く、5年以上のものの鎮痛効果は10年以上のものと大差が無い。したがって、鎮痛剤として利用するのなら5年以上のものを使うと良い。
5年以上経たものに鎮痛効果があるのだから、元の成分が酒の中で変化して、鎮痛効果が増強されると言うことが明らかになった。
しかし、その成分が何であるかは、謎のままである。』
以上の記述からわかるように、マムシには謎の鎮痛成分が入っています。
しかし、マムシ以外の蛇にも、鎮痛成分が入ってると考えるほうが自然でしょう。
また、マムシには、多くの未知の成分があり、それが傷ついた細胞、組織の修復を早めているとも、考えられます。
村上先生は、インドメタシンと同等の鎮痛作用と述べています。インドメタシンには副作用がかなりありますが、マムシ酒には副作用は、ほとんど無いでしょう。
マムシ酒のほうが、鎮痛剤としては優れています。
マムシには、まだまだ未知の薬理作用があるでしょう。
マムシは、現代の日本でも用いられている、数少ない動物薬です。
ドリンク剤や一部の栄養剤、漢方薬、健康食品に配合されています。
なんとなく効きそうだなという感じで飲んでいるのでしょう。
しかし、実際に良く効く、動物薬です。
何に使うかは、売り手の薬剤師の経験が物を言いますが。
蛇は、長期間 餌を食べなくても耐えられる、ということで、生命力が強いとされています。また、毒のある種もいて、なんとなく何かに効きそうということで、強壮剤的にも用いられてきました。
さて、
日本産の毒蛇は、 10数種類いるといわれています。
こう書くと、意外に多い感じがしますが、
ニホンマムシ以外は、ハブ類が狭い地域 特に南西諸島に分布しているので、日本の大部分の地域では、マムシが唯一の毒蛇です。
ヤマカガシも全国に分布していますが、数が少ないのと、人に対して危害を加えることは極めてまれなので、やはり、マムシが唯一の毒蛇といえましょう。
海蛇の中にも、「エラブウナギ」のように猛毒のあるのがいますが、性質がおとなしいので、人に危害を加えることはまれなのと、分布地域が限られているので、これまた数に入れなくてもよいでしょう。
そういうことで、マムシが、唯一の毒蛇で、毒があるので、特別に効きそうということで、古くから薬にされて来たのでしょう。
しかし、マムシの薬理作用、薬効などについて詳しく記述したものが、このブログ以外にありません。軽く触れているのはありますが。
以前、4回に分けて書きましたが、それに補足して、更に何回かに分けて、マムシについて書いてみます。
日本で売られているマムシについて
韓国にもマムシがいますが日本のと同じ種かどうかは、分かりません。
台湾のマムシは日本と同じニホンマムシです。
中国にもマムシはいますが、日本のとは別な近縁種です。
中国では、マムシは養殖もされていますが、供給量の大部分は、天然のものようです。
そして、日本で用いられているマムシの多くは輸入品といわれています。
しかし、効き目は特に変わらないようです。
そして、韓国のも大陸のも、生薬では同じように扱われています。
商品としてのマムシは、蒸し焼きという形がほとんどです。粉になっている場合もありますが、他の蛇を混ぜられてもわかりません。
買い求める場合は、「マムシの蒸し焼」というのを求めるのがいいでしょう。
(買う人は、まあ あまりいないでしょうが。)
マムシを延ばして乾燥したものを反鼻(ハンピ)ともいいます。
鼻が反り返っているので、反鼻(ハンピ)というようです。
ドリンク剤その他にも、マムシが使われているのもあります。「マムシ」と書かずに、「ハンピ」と書いてあるのが、しばしばあります。
ずばり、マムシと標記すると、いやがる人がいて、売り上げに影響するのを恐れてなのでしょう。
黒焼きにしたものを、五八霜(ゴハッソウ)ともいいます。霜というのは、黒焼きのことです。
マムシの黒焼きは、現在も商品としてはあります。
しかし、どの程度用いられているのか、分かりません。
マムシの種類と学名
日本のマムシは、ニホンマムシとツシママムシの2種で、中国には、中介亜種、短尾亜種、 日本亜種、高原蝮蛇の3~4種です。
『決定版 日本の両生爬虫類』内山りゅう先生、前田憲男先生、沼田研児先生、関慎太郎先生。平凡社。2009年9月 より
ニホンマムシ Gloydius blomhoffi
大きさ:40~65cm
分布:北海道、本州、四国、九州、焼尻島、天売島、佐渡島、隠岐島、壱岐島、五島列島、屋久島、種子島、伊豆大島、八丈島など。
特長:
マムシは胎生で、8~10月に5~6匹の小蛇を生む。子蛇は、全長約20cmで、生まれたときからすでに毒を供えている。
肉を食用にすることもあるが、マムシの皮や乾燥肉、粉末、または1匹丸ごとを酒に漬け込むなどしたマムシ酒が全国各地で民間療法として伝わり、利用されている。
これはハブ酒の場合も同様だが、古来から毒蛇の強靭な生命力にあやかり、これを食すれば心身の強壮に効果があるとされたからである。
ツシママムシ Gloydius tsushimaensis
大きさ:全長40~60cm
分布:対馬にのみ分布している。
特長:背面は褐色の地に、ニホンマムシに比べてやや小さい楕円形の模様が非対称に並ぶ。模様の真ん中には、暗色斑がなく、いわゆる銭型紋をもたない。全体的な色彩がやや淡い。ニホンマムシの下が黒色なのに対して本種はピンク色である.
「中国薬用動物養殖与開発」には、蝮蛇の学名は、Agkistrodon halys Pallas であり、
我が国(中国)には、3種の亜種がいるとして、
以下の3種が記載されています。
このうちの日本亜種は、台湾省にのみ分布していて、日本列島のマムシと同じであるとしています。
(中国)マムシ
亜種 中介亜種 Agkistrodon halys itermedius Struch
短尾亜種 Agkistrodon halys brevicaudus Stejnegaer
日本亜種 Agkistrodon halys blomhoffi Boie
しかし、『決定版 日本の両生爬虫類』には、上記のように ニホンマムシの学名は、Gloydius blomhoffi となっており、上記の日本亜種と同じかどうかは、不明です。
また、「動物本草」(中医古籍出版社)には、蝮蛇としては、Agkistrodon halys Pallas を挙げていますが、高原蝮蛇(甘粛、青海、チベット産)学名 Agkistrodon strauehii Bedriaqa も、蝮蛇と同じ効用があり、薬になると記載されています。
マムシの生命力はすごい!
蝮は、飢えに強く、最長で、1年以上、何も食べないで生きていられる。
蝮に限らず、蛇は一般的に生命力が強いとされています。その理由の一つが、長い間、食べないで生きていられるということです。
では、どのくらいかと言いうと、『中国薬用動物養殖与開発』に蝮に関しての記述がありましたので、紹介します、
『中国薬用動物養殖与開発』貴州科技出版社。2002年1月より
マムシの食性
マムシは食性が広く、そのため広範囲に分布している。泥鰌、タウナギ、蛙類、トカゲ、小型の鳥類、小型の獣類を主な食物としているが、時には昆虫、ムカデ、ダンゴ虫なども食べる。蝮蛇は食欲が極めて旺盛で、大人の蝮蛇は連続して、3~5匹のスズメやネズミを食べることが出来る。
食べ方はというと、始めに噛み殺してから、呑み込む。これは、飼育下でも同様である。
幼少の蝮蛇は、主にムカデ、ダンゴ虫や昆虫を食べている。
マムシの消化速度は、きわめて緩慢で、1度食べると5~6日で、消化を完了する。
最も、消化が盛んなのは、食後22~50時間の間である。
消化速度は、外界の温度と関係があり、25℃の時の消化速度は15℃の時と比べると、非常に速い。
マムシの飢えに対する耐久力
蝮蛇の食物利用率は、非常に高い。(食べた量に比べて、体重増加量が、他の動物より極めて多い。エネルギー効率が良い。)
たとえば、中介亜種の蝮蛇の食後の体重増加率(排便後の体重増加量÷食事量)の最高は、72.7%で、最低は6.4%、平均は33.4%である。
しかし、分解代謝速度は極めて低く、気温10℃以下で、完全絶食状態にすると、その体重の減少は極めて低い。たとえば、132日間、絶食させても、体重はわずか2.3%~12.0%、平均5.0%減少するだけである。
しかし、蝮蛇の飢えに対する耐久力は、飲水と密接な関係がある。
たとえば、渤海の蛇島の蝮蛇は水を供給した条件下では、80~392日間の絶食に耐えている。体重減少の平均は、わずかに24.7%である。
水を供給しない条件下では、34~107日間しか生存できない。
体重減少の平均は33.8%である。
生まれたばかりの子供の蛇でも、水を与えれれば、食料のない条件下でも、長く生きられ、死亡しない。
マムシの薬用効果・薬効 その8
第236回
蝮には、数多くの薬理作用があります。古い時代から今に至るまで、さまざまなことに応用されてきました。
古典での記述
マムシの薬効については、最も古い本草書である「神農本草経」にはなく、それに、注を付した「本草経集注」の「虫獣下品の部分」に、マムシのキモ(蝮蛇胆)が収載されており、マムシの肉についても付記されています。
「本草經集注」 南朝‧梁 陶弘景
蝮蛇胆
味は苦く,微かに寒である。毒が有る。
主治 :瘡。
肉︰釀して酒にすれば,癩疾,諸 ,心腹痛を治す。下結氣,蠱毒を除く。
其の腹中にある吞まれた鼠︰有小毒,治鼠 。
蝮蛇は黃色で,黃頷で口はとがっている。毒は最も烈しい。
「本草綱目」 李時珍
蝮蛇
李時珍「蝮という字は、虫偏に復の右部分を合わせた字である。蝮というのは、これに触れば復讐に人を害する。害されると、今度は人がまた復讐する。それ故に蝮と言う。」
蝮蛇は形が長くなく、頭が平たく、口が尖っている。頭に斑があり,身体には赤い文斑があるが、青黒色のものもいる。人が触れ犯すと頭、足に粘着する。東方の諸山に非常に多いので、草の中を歩行するに注意深くしなければならない。
蝮の肝の 気味は、苦く、微かに寒く、毒がある。
蝮の肉の、 気味は、甘く、温で、毒が有る。
主治:酒に漬けて薬用酒にすれば、ライ病、諸瘻、腹痛を治す。
結気を下し、蠱毒を除く。
(別録)五痔、腸風瀉血。
(甄権)大風、諸悪風、悪瘡瘰癧、皮膚頑痺、半身枯死、手足・臓腑間の重い疾患。
附方
脂:耳が聴こえない場合には、綿でつつんで塞ぐ。また、腫毒につける。
皮:焼いて灰にすれば、丁腫、悪瘡、骨疽を治療する。
抜け殻:身体の痒み、疥癬、
骨:赤痢には、焼いて灰にして、三銭を服用する。その他の蛇でも良い。
尿:器の中で飼って、尿をとる。 痔ろうを治す。
現代での記述
「毒薬本草」 より
(毒薬本草とは、なかなか魅力的な名前です。有毒な生薬だけを集めた書物という意味です。
実は、毒薬本草と名のついた本は、いくつかあります。
私自身は、2冊ほど持っています。
毒薬とは言うものの、これが毒薬?というのも含まれています。)
マムシの毒は危険ですが、薬としての、マムシ(肉、骨、胆など)には、全く毒性が有りません。
マムシ酒を飲んで死んだ人はいないですし、マムシの蒸し焼きや黒焼きを服用して死んだ人もいません。
マムシの毒については、いずれ 後で述べます。
「毒薬本草」のマムシの項の末尾には、結論としてこう記述されています。
按ずるに:
蝮蛇(マムシ)は、体力を補い、諸々の寒さ(諸風)による病気を治す効果がある。
おおよそ、麻風、風湿痺痛、皮膚頑痺の寒さによる疾病(風疾)のすべてを治療することが出来る。
現代での研究では、蝮蛇には、抗がん、抗結核作用があり、骨髄炎、紅斑狼瘡などを治療する効果がある。
蝮蛇の毒は毒腺の中にだけあり、蝮蛇の身体そのものは毒性が少ない、という特長の有毒な動物生薬である。
「採集炮製」 春、夏に捕獲する。捕獲後、腹を切り開いて内臓を除去する。加熱して乾燥させる。(いわゆる、マムシの蒸し焼き。この形で、日本では、一般的には売られている。)
黒焼きにして粉にしたものは、蝮蛇霜(フクダソウ:日本では、五八霜ゴハッソウという)と呼ばれる。
「化学成分」 蝮蛇粉の主な成分は、コレステロール、タウリン、タンパク質、脂肪、アミノ酸、有機酸、ビタミンA、ビタミンBなど。
「功能主治」 去風、攻毒、鎮痛、補益、母乳を出を良くする。
麻風、風湿痺痛、疥癬、皮膚頑痺、瘰癧、瘡癤、病後の虚弱、多汗、神経衰弱、母乳の不足など
臨床研究:
1、麻風を治療する。 蝮蛇酒を単独、または 薬と併用する。
麻風の患者の一般的な状況、たとえば精神、体重及び食欲などはすべて改善した。皮膚反応は消退または進歩した。知覚は好転、潰瘍は縮小、性機能は改善した。
2、その他の疾病。
各種の蝮蛇製剤を用いて治療したところ、
皮膚ガン、早期の胃ガン、神経性皮膚炎、掌蹠角化症、紅斑狼瘡、結節性紅斑に併発した風心病、骨髄炎、骨結核、肺結核、甲状腺腫瘍、風湿麻痺、腸系膜リンパ結核などに対して、すべて一定の治療効果があった。
冷凍乾燥した蝮蛇製剤(蝮蛇の粉0.3gをカプセルに装入したもの。1日3回、1回に4カプセル。)を用いて、膠原病、皮膚病、結核病、心臓血管病、腫瘍など18種の疾病に対して治療することが出来た。
我が国の「蛇島」と「長白山脈」産の蝮蛇より作った「蝮蛇注射液」を用いて浸潤性肺結核、慢性気管支炎、慢性骨髄炎などの疾病を治療したところ、良好な効果があることが証明された。
動物実験では、抗炎症作用、マクロファージの食作用の増進、物質代謝・同化の促進作用があることが証明された。
「動物本草」(中医古籍出版社)
「採集炮製」 春、夏に捕獲する。捕獲後、腹を切り開いて内臓を除去する。丸めて円盤状にして、頭は中央に置く。直径は6~10cmで、加熱して乾燥させる。身体は黒褐色または土褐色で、腹部には黄白色の脱落しやすい鱗がある。体の鱗は腹部の2列が外に向かって立っている。鼻孔と眼の間の頬はくぼんでいる。眼の後ろには白色の眉線紋がある。尾は短い。
「中医食療法全録」頂平先生主編、人民衛生出版社、1997年9月 より、
蝮蛇酒①
処方:蝮蛇 1匹、人参 15g
製法:蝮蛇を生きたまま器に入れ、白酒1,000mlを入れ、人参を加える。
7日後より服用できる。
用法:何時でも、適量を服用する。
効用:去風解毒
出典:中医臨床備用
主治:牛皮癬
蝮蛇酒②
処方:蝮蛇 1匹、酒 2斗
製法:生きたままの蝮蛇を、酒2斗の甕に封じ込め、馬が小便をした所に埋める。1年後に取り出せば、蛇はすでに消化されている。
用法:1度に数杯、適量でやめる。
効用:解毒
出典:家庭食療手冊
主治:悪瘡諸萎、悪風頑痺、癲病を治す。
エピソード
昔、学生時代に、同級生から、こんな面白い話を聴いたことがあります。
彼は、信州の南部の出身です。その地区には、薬用酒の工場があります。そこへ、マムシを持ち込むと1匹500円で買い取ってくれたとのことです。地元の人の良い小遣い稼ぎになったそうです。
薬大生の時でしたから、今から40年くらい前のことです。
今も、買い取っているのかは分かりませんが。
その、薬用酒には、確かに「反鼻」と表示されていますが、含有量が少ないので、マムシとしての効果はあまり期待できないでしょう。
蛇のニオイとか味がするくらいでないと、マムシとしての効果は期待できないでしょう。
トップシークレット 薬品名は出しません。
昭和薬局でのマムシの入った薬(漢方薬)
ちなみに、当店で扱っているマムシの入った薬は、カプセルに入っていますが、ビンを開けると、蛇独特のにおいがします。
しかし、お客さんには、漢方薬のニオイです、と説明しています。ウソではないですから。
また、蛇のニオイだと判別できる人は、ほとんどいないし、
そういう人は、この薬はニオイからして効くと判断するでしょうから、それはそれで良いわけです。
この薬を、お勧め(疲労などで)した場合には、大部分の方からは、よく効いたといわれます。
最初は、お試しの小さいのを勧めますが、次からは、多くの方が、大きいサイズのを求められます。
この薬に関しては、マムシが入っていることを、多くの方には、あえて伝えてはいません。
ひどい疲れにも効く漢方薬です、と説明してあります。
成分を見ても、たくさんの生薬が並んでいるので、よく気をつけないと、マムシの存在には気がつかないでしょう。
また、疲労の方に、やみくもに出してはいません。マムシとしての効き目を考えた上で、勧めています。それで、疲労回復剤以上の効果を上げることが、喜ばれている理由でしょう。
私自身は、マムシ、ハブ、コブラ、シマヘビの蒸し焼きを粉にして飲むこともあります。
また、店の二階の冷蔵庫には、蛇を始め何種類かの虫類薬をストックしています。売るのではなく、自家用または単なる趣味でですが。
というわけで、蛇のニオイはすぐに分かります。蛇には、やはり共通したニオイがあります。
また、蛇を粉にして飲むのは、面倒ですし、癖のある味、ニオイで、こういうものは、今の時代嫌われるでしょう。
カプセルや錠剤にしてあれば、抵抗がないでしょう。
最後に、マムシの不思議な鎮痛作用について
マムシの不思議な鎮痛作用
今から相当前に、漢方薬メーカーのセールスの人から、こんな面白い、不思議なことを聞いたことがあります。
ある、薬局では、蝮酒を鎮痛剤として売っている。
(これは、法的には違法です。しかし、どこの店かと聞かれても、私は知りません。あえて、聞きませんでした。あるいは、もう、廃業しているかもしれません。こういうことは、
相当年配の人しか知らないでしょうから。)
スポーツをしているお客さん(コーチとか監督みたいな人らしい)が、あれをくれというと、マムシ酒のビンから酒を取り出し、100mlあたり 何円という風に売っているとのことでした。
痛みによく効き、怪我の治りも早いということです。
スポーツをしている人が、西洋医学的な治療を受けたり、薬を使ったことが無いはずがありません。
しかし、それよりも良いということで、敢えて こういう不思議なものを買って使っているということでしょう。
その、マムシ酒の造り方は、こうです。
生きているマムシをビンに入れる。死んでいるのは効かず、生きたままでないと効かないそうです。しばらく、そのままにしておいて、糞を出すのを待ちます。
当然 絶食していますが、相当期間、3ヶ月とかそれ以上生きています。
それに、焼酎を入れて、しばらくおいておくと、きれいな飴色になります。
それを、薬として利用するのだそうです。
この話を聞いたとき、実に不思議なことだなとは思いました。
しかしその後、生薬、特に虫類薬について調べているうちに、蛇の類の薬効に、骨節疼痛、麻痺とか関節痛とか通絡とか、痛みに効くような言葉が盛んに出てくるのに、気がつきました。
そうこうしているうちに、村上光太郎先生の「よく効く民間薬100」という、本を手に入れました。そこに、マムシ酒の鎮痛作用について欠かれていました。
昔聞いたことの全く符合しています。
『薬草採取に行ったときに、一緒に行った学生の一人が、足を捻挫して歩けなくなってしまった。
近くの民家で、休ませてもらったところ、その家のおばあさんが、何かに浸したと思われるガーゼを持ってきて、いためた所を湿布してくれた。
しばらくして、おばあさんが「歩いてごらん」と言うので、学生が歩いて見たら、腫れも引き、痛みもなくなっていたとのことです。
マムシの、鎮痛効果は、民間薬や漢方薬の専門書にものっていないし、私(村上先生)も知りませんでした。
マムシ酒の新しい効用に出会い、感激した。
その後、マウスを使ってマムシ酒の鎮痛効果をテストした。
その結果、漬けて5年以上たったマムシ酒の鎮痛効果は、インドメタシンとほぼ同じであることがわかった。
漬けて、1,2年のマムシ酒は鎮痛作用が弱く、5年以上のものの鎮痛効果は10年以上のものと大差が無い。したがって、鎮痛剤として利用するのなら5年以上のものを使うと良い。
5年以上経たものに鎮痛効果があるのだから、元の成分が酒の中で変化して、鎮痛効果が増強されると言うことが明らかになった。
しかし、その成分が何であるかは、謎のままである。』
以上の記述からわかるように、マムシには謎の鎮痛成分が入っています。
しかし、マムシ以外の蛇にも、鎮痛成分が入ってると考えるほうが自然でしょう。
また、マムシには、多くの未知の成分があり、それが傷ついた細胞、組織の修復を早めているとも、考えられます。
村上先生は、インドメタシンと同等の鎮痛作用と述べています。インドメタシンには副作用がかなりありますが、マムシ酒には副作用は、ほとんど無いでしょう。
マムシ酒のほうが、鎮痛剤としては優れています。
マムシには、まだまだ未知の薬理作用があるでしょう。