◎当帰の驚くべき薬理作用としては、子宮に対する双方向の作用です。
これが、当帰が婦人科系統に盛んに用いられている理由です。
当帰の薬理作用の中で最も重要なのは、当帰の子宮に対する作用です。
当帰には子宮の発育を促進する作用のほかに、子宮に対して収縮と
弛緩作用の双方向性の調節作用があります。
双方向性という意味は、正反対(上げる・下げる、強める・弱める、
足す・引く等など)の機能を同時にもつ、ということで。このことは、実は、重要なことです。
子宮の筋肉の働きに対しては、収縮と弛緩があり、
当帰中の有効成分の主なものには二種類があります。
その一つは、水溶性で非揮発性のアルカリ性物質で、子宮筋を興奮させ、
子宮の収縮力を増強して、不規則な収縮を規則的にする作用があります。
もう一つは、揮発性物質(精油---ニオイの元です)で、逆に子宮を抑制し、
収縮力を弱め、子宮筋を弛緩させる働きがあります。
当帰が、生理過多にも、生理過少にも、子宮の異常出血にも
、無月経にも、不妊症にも、流産にも、胎位異常の矯正など、産婦人料の疾患に、
幅広く用いられるのは、双方向調節作用があるからです。
そのほか精油には、鎮痛、鎮静作用があるので、いろいろな痛み
(生理痛を含む)の症状に用いられています。
また、漢方医学ではさまざまな産婦人科疾患を、月経病、帯下病、妊娠病
、産後の病、婦人雑病などに分類しています。その大部分は血の病気です。
日本では、昔から「血の道」の病気という言葉がありますが、
婦人科の病気は、みな血の流れている道である血流に関わっています。
当帰には補血、活血、止血作用があり、特に子宮収縮の抑制と
促進する双方向の調整作用をもっているので、必要によって子宮筋を緩めたり、
血流を増加させて症状を改善します。あるいは子宮の収縮を強め、
リズムを回復します。また、子宮の発育を促進します。
そのため、ほとんどの婦人科系統の処方に当帰が取り入れられています。
当帰には鎮痛作用があり、頭痛、胸痛、関節痛、神経痛を目標とした
漢方処方には、当帰を含むものが多いようです。
本草備要の記述に、「澤皮膚,養血生肌(血旺則肉長),
排膿止痛(血和則痛止)。」とあります。
『皮膚をうるおし、栄養を与えて新しい皮膚を作る。膿を出して痛みを止める。』
ということですので、
漢方の外用の軟膏にも、当帰が入っているのでしょう。
注:当帰には、上述のように、さまざまな薬効があります。
しかし、当帰を含む製剤が、当帰そのものと同じ効果があるわけではありません。
他の生薬と組み合わせることによって、効能効果は変わってきます。